地下鉄にて
日本全国、連日の猛暑日が続いている。
7月の時点で猛暑だったというのに、8月はそれを遥かに上回る「激暑」の日々になるとのこと。
猛暑でこんなに暑いのだから、激暑の暑さとはいかなるものだろうか……。想像するだけで額から汗が噴き出してきそうだ。
はてさて、最近街ゆく人々や電車内の人々を観察している内に、私はある事に気がついた(人間観察は私の趣味なのだ)。
この暑さにやられてか、老若男女を問わず、皆の表情がまぁ険しい事! 爽やかにニコニコ笑顔でいる人が少ないような気がしてならない。
特に朝の地下鉄の車内の空気は悲惨だ。
サラリーマン諸氏が朝から疲れた表情で、しかもやる気もなさそうにつり革につかまっている。
朝一番にこんな様子を見ていると、こっちまで元気がなくなってしまう。
身も心も疲れ切ったサラリーマン諸氏を見ていると、私はかつての教え子であるK君のことを思い出す。
彼は私が某大手進学塾で講師をしていた頃に出会った、努力をとことん積み重ねて早稲田実業に合格した子である。
私の著作『夢をかなえる中学受験』の中でも、仮名という形ではあるが紹介したあの野球少年である。
K君が早稲田実業に進学して3ヶ月くらいしたある日、学ランに身を包んだ彼がひょっこりと私に会いに来た。
久しぶりに四方山話に花を咲かせていると、彼が突然「大人になるとやる気がなくなるのですか?」と聞いてきた。
K君の言わんとするのは次の通りである。
念願の早稲田実業に合格した彼は、毎朝それはそれはやる気に満ち溢れて通学していた。
たしかにそう語る彼からはバイタリティというものが全身から漂ってくるような、とにかく充実している人間の表情である。
しかし、K君は同じ電車に乗っている大人たちの表情を見ていると気分が悪くなってくるのだという。
一日が始まったばかりだというのに自信なさげに俯いている彼らの顔は、朝から頑張って仕事をしようという表情には見えないというのだ。
そしてK君はそんな彼らを見ていると、なんだか自分まで暗くなり、やる気が無くなってしまうと言うのだ。
私はそんな質問にうまく答えられなかったことを思い出す。
「あのね、大人は疲れているんだ」
「大人になると現実を知ってしまうんだよ」
毎日充実した毎日を送っているK君に、こんなバカな回答はしなかった。
しかし間違いなく覚えているのは、正直納得させられる回答はできなかったということ。
子どもは、常に正しい眼で大人達を見ている。
努力して頑張っている子どもたちは、正しい眼で善悪の判断をしているのだ。
